みかんがみっかんない

無力なアタシの、不甲斐ない毎日。

オトナの鬼ごっこ

 


明日の近畿地方は、気圧の谷や梅雨前線の影響で曇りで、雨の降っている所があるでしょう。

京都府は、今夜から明日にかけて、雨足が強まる見込みです。

 

釣りをする夢を見ていた。

釣りが趣味なわけではない、過去に付き合った男にたまたま釣り好きが多くて、何度か竿を握らせてもらったことのあるくらい。

そのわりに、夢の中での自分はシーバス釣りで有名なユーチューバーだった。

 

海の景色が徐々に薄れ、カタカタと揺れる窓の音が聞こえた。乾燥した目を薄っすら開けると、踊るカーテンが見える。

 

サーッと、風に流される雨の音がした。

 

意識がはっきりと現実に戻る。

そして飛び起きた。足がびしょ濡れだ。

私はしばしば、窓を全開にして眠りにつき、夜中の大雨で足がびしょ濡れになることがあった。

 

 丑三つ時、両足に絡む水分を眺め、雨であろうが台風であろうがお構いなしに公園を走り回っていた頃を思い出した。

あの頃は、雨など大して重要ではなかった。

濡れれば拭けばいい、ただそれだけのこと。

 

だけど雨の中、鬼ごっこをすることはもうなくなってしまった。

化粧が崩れるから?奮発して買ったブランドバッグが傷むから?風邪をひくと会社に迷惑をかけるから?

 

違う。

 

鬼ごっこがそれほど重要ではなくなったのだ。 

 

今は全速力で走る持久力もないし、そもそも自分が鬼になろうがならまいがどうだっていい。

鬼ごっこでスリルを味わえなくなってしまった。

 

だけど私は今、実は鬼ごっこ中なのだ。 

金曜日、朝出勤すると鬼の仕業で私は鬼となった。

自分のデスクの上に、「ゴミ捨てよろしくね♡」という付箋メモと、はち切れんばかりに膨れた90リットルゴミ袋が置かれていた。

私の鬼の番。

 

お土産どうぞ、と空のクッキーの袋を渡すことはもうしたし、直帰と書かれたホワイトボードを消すこともした。

そうだ、と私は化粧ポーチを探る。

 

そして錠剤を3つ開封し、お茶に混ぜて出した。下剤だ。

混むトイレの前で冷や汗をかく彼女を見届け、その日の私は定時で退勤した。

 

日々、こんなことの繰り返し。

やられた方が、次は鬼。オトナの鬼ごっこ。

一向に参加してこないまわりが不思議でならない。こんなにもスリル満点なのに。

 

「みんなで鬼ごっこしようよ!!!」

 

窓の外へそう叫び、アパートの5階から雨の中へまっさかさまに転がり落ちた。

すると、こんな雨の夜中にみんなで鬼ごっこをしているではないか。

 

幼稚園の頃の担任の先生、初恋の先輩、 彼氏だと思っていたら実は既婚者だったあいつ、困ったときはいつも傍にいてくれる親友、そして別居中の旦那。

なんだ、みんないるじゃない。

 

「いつからいたの?どうして誘ってくれなかったの?」

大声でみんなに問いかけるのに、雨の音で簡単にかき消されてしまった。

 

「私も混ぜてよ!」

みんな、キャーキャー叫びながら走り回っている。いい大人なのに、まるで5歳児のような振る舞いだ。

 

「タッチ返しはあり?なし?」

鬼にタッチされた瞬間、その鬼だった相手にタッチをし返して鬼を免れる方法だ。あのルールはありの場合となしの場合があるので、参加前に確認せざるを得ない。

 

だけどみんな鬼ごっこに夢中で、私が参加を表明していることさえも気づいていない素ぶりだ。

 

「ねぇ!聞いてるの?」

 

別居中の旦那が、かつて私の恋人をいとも簡単に奪っていったあの嫌な女を、嬉しそうに追いかけ回している。

かと思いきや、私の親友が、私の会社のハゲの上司を嬉しそうに追いかけ回している。

私の言葉は雨に消されて届かないのか、それとも誰も興味ないのか。

 

「ねえみんな、誰が鬼なの?」

 

私がそう叫ぶと、ピタッと鬼ごっこが止んだ。そして、雨も。

 

コンクリートに染みた雨の匂いも、排水管から流れる雨水の音も、風が運ぶ冷えた空気も、一切を感じさせない静寂が私を包む。

はっと我にかえると、さっきまで鬼ごっこをしていた誰もがいなくなっていた。

ずっと周りを眺めていたはずなのに、いなくなる瞬間を見届けさえもできなかった。

 

タタタタッ

 

不意に、背後から小さな足音が聞こえた。

そして足音は私のちょうど後ろでとまり、小さな手が私の太ももに触れた。

 

振り返ると、少女がいた。

少女は、幼い頃の私にどことなく似ている気がした。

 

少女は言った。

 

「タッチ」

 

 

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